伊藤 康之

町の誇りであり心の拠りどころ

PROFILE

1975年3月19日、茨城県出身。高校時代は野球に打ち込み、大学は教師になることを目指して三重県の皇學館大学に進学。学生時代に神社でアルバイトをしたことがきっかけで神職に興味を持ち、卒業後は兵庫県淡路市の神社に就職。その後、地元の茨城県の神社を経て、2017年から玉前神社に務めている。

MESSAGE

母性愛あふれる神様のご神徳を

真東を向いて構える玉前神社の「一の鳥居」。春分と秋分の日には、九十九里の海岸から昇った太陽がこの鳥居を照らし、日の出の位置と鳥居を結んだ延長線上には、寒川神社、富士山山頂、七面山、竹生島、伊勢神宮の内宮が遷座したとされる元伊勢・皇大神社、大山の大神山神社、出雲大社が並ぶ。「ご来光の道(レイライン)」と呼ばれ、玉前神社は東の起点であることが関東屈指のパワースポットと言われる所以だ。

そんな玉前神社に務めるのが、伊藤康之神職。若かりし頃は教師を目指して勉学に励んでいたが、歴史好きも手伝って大学で神職について学び、この世界へ。兵庫、茨城の神社での勤務を経て、2016年に玉前神社へやってきた。

町民に愛され継承されてきた上総十二社祭り

玉前神社を中心として毎年9月に行なわれる上総十二社祭り(※)は、年に一度開催されるこの町の伝統行事。千葉県指定無形民俗文化財にも指定されており、名実ともに町民によって守られてきた、町の誇りと言えるお祭りだ。

「各地に散った玉依姫命とその一族が年に1回、釣ヶ崎海岸に集まり再会するという壮大な儀礼です。この玉前神社をはじめ、同じ一宮町の南宮神社など、計5社9基の神輿が釣ヶ崎の祭場に集まるんです。文献上では約1200年前、大同2年に今の形になったと言われていますが、その前からはじまっていただろうとも言われているので、この町の歴史そのものとも言えるかもしれません」

9基の神輿が海岸に集まり、駆けるそのさまは圧巻の一言。神輿を担ぐ男たちはもちろん、先導する役には女性や子どもも参加するので1基あたり約150人、それが9基集まるのだから担ぎ手だけで1000人にも上る。もちろんそれを見るために集まってくる人も多数おり、この海岸を埋め尽くさんばかりに3000人以上が集結する一大行事だ。

「神輿を担ぐのは誰でもできますが、やはり砂浜を担いで走っていきますので、小さい頃から慣れている地元の方でないとなかなかできるものではないでしょう。アスファルトのような平坦なところはまだ大丈夫だとは思いますが、最後は浜辺を走りますので。ぜひ一宮に足を運んでいただき、この迫力をご覧になっていただきたいと思いますね」

※令和二年度の上総十二社祭りは中止

一宮は人の縁を感じられる町

玉前神社

に務め、ここで1日のほとんどを過ごす伊藤さんだが、普段は四街道市から車で約1時間かけて通勤している。これまでも茨城、三重、兵庫などさまざまな町で暮らしてきたわけだが、そんな伊藤さんにとってこの一宮の町はどう映っているのか。

「人々が温かく、迎え入れてくれる土壌があるのかなと感じます。これまで2社に務めてきましたが、やはり時代の流れとともに神社離れというのはありました。そんな時代でも一宮町では、地域の皆さんが神社のことに全面的に協力してくださいますので、非常にやりやすいんです。私はそういうところにも誇りを持っていますし、温かい目でずっと見守ってくれているんだなと感じます」

歴史と文化、そして人を大切にする温かい町、それが一宮。根底には、深い地元愛がそこにある。

「町のみなさんは、本当に地元を愛していますよね。この町が大好きなんだと思います。そういったところを神社としてどう生かしていくのか、その気持ちをどう汲み取っていくのか、これからの時代にもっと大切になっていくのではないかと思います」

そんな伊藤さんに「この町のお気に入りスポットは?」と尋ねると、やはり返ってきた答えは一宮の象徴である「海」だった。

「広大な海を見て波の音を聞いていると、心が洗われますし、いろんな悩みも吹っ切れます。外洋らしい荒々しさや力強さみたいなものも魅力的で、眺めているとエネルギーがもらえるんです。考えがうまくまとまらなかったり、うまくいかないことがあったりすると、通勤途中にちょっと寄ってみたりしますね。そうすると、自分の中で何か消化しきれない何かが、すべてスッキリするんです」

時代の変化に対応しながら、心の拠りどころであり続ける

「全国でも重きをおくべき神社として古くから朝廷・豪族・幕府の信仰を集め、上総国一之宮(かずさのくにいちのみや)の格式を保ってきたのが、この玉前神社です。ここに当社の荘園として『玉前庄(荘)』ができ、上総国一之宮であったことから、この地一帯が一宮町と呼ばれることになったと言われています。この神社を中心に町が発展していったという歴史がありますので、住民の方も玉前神社に誇りを持ってくださっています」

神社の御祭神は「玉依姫命(たまよりひめのみこと)」という、縁結・子授・出産・養育・月の物など、女性の心身の作用を司る神様。母性愛あふれる温かい神様のご神徳を求める女性の参拝者が多いのが玉前神社の特徴だ。

神社での参拝はもちろん、敷地内の「はだしの道」も、パワースポットとして人気の場所。大粒の玉砂利が敷かれた道を裸足で3週歩くというもので、「大地から神様の良いエネルギーをいただこうという場所です。1周目で心をきれいにし、2週目で気を入れ、3週目で気を満たしていく。これを目当てに来られる方もいらっしゃいます」とのことだ。

近年では千葉県外からの来訪者も増えているという玉前神社。伝統を守り続け、町の誇りとしてあり続けてきた存在であるとはいえ、「今のまま待っているだけでは、時代にとり残されていってしまう」というのが伊藤さんの考えだ。玉前神社のため、一宮の町のため、そして将来に文化を継承していくため、「伝統を守りつつ、時代の変化にも対応していきたい」と伊藤さんは話す。

「インターネットの時代なので、これまでのような紙媒体を主とした情報発信では足りないと感じています。神社という場所からイメージが離れるかもしれませんが、やはりホームページはもちろんのこと、SNSも積極的に活用するようにしています。待っているだけで参拝者が来ていただける時代ではないので、変化に対応しながら、玉前神社や一宮の魅力を発信していく方法を考えるのは、残すべきこと、伝えていくべきことをしっかり行ううえで大きなカギになってくると思っています」

何世代にもわたってつないできた、玉前神社の誇り、そして一宮の歴史と文化。最後に伊藤さんに、これからの世代にもそれを継承していくために必要なことは何かと問うと、やはり「人との縁」ということだ。

「誰しも、必ず誰かとつながりを持っていますので、そこで得た縁というのは常に大事にしていきたいですよね。神社を中心につながる縁もありますし、そこからさらにつながる別の縁もあります。人と人とのつながりというのを大事にしながら、皆さんが神様のご神徳に触れられる場所としてこの玉前神社を保ち、心の拠りどころとして、後世に継承してきたいと思います」

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